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はじめに
発達性トラウマ障害は、近年注目されている概念です。子ども時代に受けた虐待やネグレクト、家庭内暴力などの逆境的な経験が原因で発症する障害です。従来の発達障害や精神疾患とは異なる症状を呈し、適切な理解と治療が求められています。本記事では、発達性トラウマ障害の定義、症状、診断、治療法などについて詳しく解説していきます。
発達性トラウマ障害とは
発達性トラウマ障害は、小児期や思春期に継続的または反復的に有害な出来事を経験したり目撃したりすることによって生じる障害です。その特徴は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の三主徴のうち、2つ以上を満たすことです。また、愛着障害や逆境的小児期体験による愛着の問題が関係していることが指摘されています。
PTSD との違い
発達性トラウマ障害は、従来の PTSDとは異なる概念として提唱されてきました。PTSDは一過性のトラウマ体験が原因ですが、発達性トラウマ障害は幼少期から継続的なトラウマ体験が原因となります。そのため、症状も複雑で多様化しています。
発達性トラウマ障害では、気分障害や不安障害、摂食障害、依存症、解離性障害など、さまざまな診断名が重複して付けられることが特徴です。また、ASD(自閉症スペクトラム症状)やADHD(注意欠陥・多動性障害)の特性も強く現れます。
発達障害との関連
発達性トラウマ障害は、発達障害の特性を基盤に持ち、虐待やネグレクトなどによる愛着の問題を抱えた状態と考えられています。つまり、発達障害と複雑性PTSDの症状が混在する不全型の障害といえます。
児童期には感情的・生理的調節不全や注意と行動の調節障害が目立ち、ASDやADHDに似た状態を示します。思春期には自己組織化障害や対人関係の調節不全が現れ、うつ状態や気分変調症、境界性パーソナリティ障害のような症状が見られます。
診断の難しさ
発達性トラウマ障害は、症状が多様で誤診されやすい特徴があります。一般的に想像されるPTSD症状ではなく、むしろ発達障害の特性と複雑性PTSDの臨床像が混在しています。トラウマ関連疾患の診断には「出来事基準」の確認が重要です。
通院中の方は、トラウマ関連障害の鑑別が必要です。発達性トラウマ障害や複雑性PTSDの治療方針は通常の精神疾患とは異なるため、専門家に相談することが推奨されます。
発達性トラウマ障害の症状
発達性トラウマ障害の症状は多岐にわたり、様々な領域に影響を及ぼします。主な症状について見ていきましょう。
感情・生理的調節の困難
発達性トラウマ障害のある人は、感情や生理的な調節に困難を抱えています。具体的には、脅威への過敏さ、自己防衛能力の低下、不適応的な自己慰撫行動、自傷行為などが見られます。
感情調節の問題は、解離、感情体験や感情表現の抑制、感情を誘発しうる状況や経験の回避として現れることがあります。
注意と行動の調節不全
発達性トラウマ障害では、ADHD様の症状が現れやすいです。注意欠陥、多動性、衝動性などの問題行動が見られます。
また、目的志向的行動の障害も特徴的です。計画を立てたり、目標を持ったりすることが困難になります。
自己と対人関係の調節困難
発達性トラウマ障害では、自己組織化の障害や対人関係の調節不全が生じます。つまり、自己概念の形成や対人スキルの獲得が困難になるのです。
その結果、否定的な自己イメージや人間不信、孤立といった問題が起こりえます。また、薬物使用や危険な行動、攻撃性なども現れる可能性があります。
発達性トラウマ障害の治療
発達性トラウマ障害の治療には、一般的な精神疾患とは異なるアプローチが必要とされています。薬物療法と並行して、様々な精神療法が行われます。
薬物療法
発達性トラウマ障害の症状に対して、抗うつ薬や抗不安薬、気分安定薬などが処方されることがあります。しかし、薬物療法単独では十分な効果が得られないことが多く、精神療法を併用することが推奨されています。
医師とよく相談し、薬物療法と精神療法を組み合わせた包括的な治療を受けることが重要です。
EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing)
EMDRは、トラウマ体験の記憶を再処理することで症状の改善を目指す療法です。眼球運動に合わせてトラウマの記憶を想起し、新たな認知スタイルを形成していきます。
発達性トラウマ障害に対するEMDRの有効性が報告されており、最も一般的に用いられる精神療法の一つです。
トラウマフォーカスト認知行動療法
認知行動療法の一種で、トラウマ体験に焦点を当てた治療法です。トラウマに関連する認知の歪みを修正し、回避行動を減らすことで症状の改善を図ります。
発達性トラウマ障害に適応できるよう、子ども向けのプログラムも開発されています。
ソーシャルスキルトレーニング
対人関係におけるスキルを学習するトレーニングです。ロールプレイやモデリングを通じて、適切な対人スキルを身に付けていきます。
発達性トラウマ障害では、対人関係の調節困難が見られるため、このようなトレーニングが有効とされています。
発達性トラウマ障害の予防と支援
発達性トラウマ障害は、早期発見と適切な介入が重要です。予防と支援に関して、いくつかのポイントがあります。
虐待やネグレクトの早期発見
発達性トラウマ障害の原因となる虐待やネグレクトを早期に発見することが、予防の第一歩です。保育園や学校、医療機関などで、子どもの様子を注意深く観察する必要があります。
虐待が疑われる場合は、速やかに適切な機関に通報し、介入を求めることが重要です。
専門家による支援
発達性トラウマ障害の疑いがある場合は、専門家に相談することをおすすめします。小児科医や児童精神科医、心理士などが、適切な診断と治療を行えます。
発達性トラウマ障害の治療には、トラウマに特化した専門的な知識と技術が必要とされます。一般的な精神科治療とは異なるアプローチが求められます。
家族支援
発達性トラウマ障害のある子どもを持つ家族への支援も欠かせません。家族全体が深く関与しているため、家族療法や親トレーニングなどが有効とされています。
虐待的な養育環境を改善し、愛着関係を再構築することが、子どもの回復に寄与します。専門家と協力しながら、家族全体での取り組みが重要になります。
まとめ
発達性トラウマ障害は、幼少期のトラウマが原因となって発症する比較的新しい概念の障害です。従来の発達障害やPTSDとは異なる症状を呈するため、適切な理解と専門的な治療が求められています。
感情・生理的調節障害、注意欠陥、自己・対人関係の問題などの多様な症状に対して、薬物療法と精神療法を組み合わせた包括的な治療が行われます。また、虐待の早期発見や家族支援なども重要な予防策となります。
発達性トラウマ障害については、まだ研究が進められている途上の概念ですが、適切な理解と支援によって、多くの人の回復が期待できます。今後、さらなる知見の蓄積と社会的理解の促進が望まれます。
よくある質問
発達性トラウマ障害とは何ですか?
発達性トラウマ障害は、小児期や思春期に継続的または反復的に有害な出来事を経験したり目撃したりすることで生じる障害です。PTSD症状のほかに、感情調整の困難、注意と行動の不調整、自己と対人関係の調整困難などの様々な症状が現れます。
発達性トラウマ障害とPTSDの違いは何ですか?
発達性トラウマ障害は、PTSD とは異なり、幼少期から継続的なトラウマ体験が原因となります。そのため、症状も複雑で多様化しています。気分障害や不安障害、摂食障害など、さまざまな診断名が重複して付けられることが特徴です。
発達性トラウマ障害の治療法には何がありますか?
発達性トラウマ障害の治療には、薬物療法と精神療法を組み合わせた包括的アプローチが必要とされています。薬物療法とともに、EMDR、トラウマフォーカスト認知行動療法、ソーシャルスキルトレーニングなどの精神療法が行われます。
発達性トラウマ障害の予防と支援にはどのようなことが大切ですか?
虐待やネグレクトの早期発見と適切な介入、専門家による適切な診断と治療、家族支援が重要です。虐待が疑われる場合は速やかに通報し、専門家に相談することが推奨されます。家族全体での取り組みも子どもの回復に寄与します。
